イリヤの空、ufoの夏が何度読んでも良すぎたので語りたい

北との戦争が始まるらしい。
長い間、そんなことを言われ続けていた人々は、最初こそ真剣に向き合っていたものの、だんだんと、日々の戦争危機のニュースを見ても、空に軍用機が飛び交っていても、誰も気に留めなくなっていった。

そして基地の近くに住む主人公、浅羽直之も、頭では戦争が始まりそうなことは理解しつつも、男子中学生らしく、男友達とバカをやって日常を過ごしている。

主人公の浅羽直之。中学2年生
どこにでもいる普通の男子中学生だ

そんな浅羽は、夏休みの最終日の夜に、どこか不思議な少女と出会う。
無口で無表情、どこかミステリアスなその少女のカバンには、大量の錠剤と、重々しい拳銃が―――。

夜の誰もいないプールで
少年と少女は出会う

一方で、世間ではUFOの目撃情報が後を絶たなかった。
その飛行物体は、既存の航空機では不可能な飛び方をして、空にはオレンジ色の軌跡が残るという。

目撃情報の絶えないUFO『ブラックマンタ』

実のところ、戦争は始まっていたのだ。北との戦争ではない。
地球外から来た未知の脅威に、人類はずっと危機に晒されていた。
ずっとずっと長い間、人々が変わらない日常を過ごしている間も、戦っている人々がいたのだ。

浅羽が出会った不思議な少女、伊里谷加奈も、実のところ戦闘機のパイロットとして戦争を闘っている。それも普通の戦闘機ではない。人類の切り札である次世代戦闘機『ブラックマンタ』であり、これを操縦できるのは世界で唯一、伊里谷しかいない。

つまり、伊里谷の敗北は、すなわち、人類の滅亡ということになるのだ。

伊里谷と浅羽、UFOの正体『ブラックマンタ』

超ド級の機密を知ってしまった普通の中学生、浅羽。
そんな浅羽に接触する軍の工作員たち。
そして出撃のたびに命を削られる伊里谷。

この物語はどこへ向かうのか―――。

度重なる出撃で、髪の色は真っ白になり、目も見えなくなっていく

概要

イリヤの空、ufoの夏は秋山瑞人先生によるライトノベルで、初版発行は2001年、全4巻完結です。

2005年には東映アニメーションによる全6話のOVAが制作され、2007年には漫画版と、NintendoDSを筐体としたゲームも発売されました。

本作の魅力

1.ミステリアスで懐いてくるヒロイン

ヒロインの伊里谷加奈は、世の中の常識を知らず、無口で無表情な少女。
しかし感情がないわけではなく、浅羽の前ではすぐ顔を赤らめる様子も。

普段はおっとりしており、人前ではオドオドすることが多い。
浅羽との接し方がわからず、浅羽の私物を盗んでは出撃のお守りにすることも。
ご飯を食べに行ったときにはこの様子。

しかし、こと戦争が絡むと、とんでもなくカッコいい。
平和ボケしている浅羽を目覚めさせるシーンは圧巻。

伊里谷は世界で唯一、ブラックマンタを操れるパイロット
自分がやられれば、人類は滅びる。覚悟のキマり方が違う

このミステリアスさと、自分にだけ見せる特別な表情。
そして不器用ながらにも伝わってくる伊里谷の想い。

そんな伊里谷は、出撃のたびに痛ましい姿になってゆく―――。

度重なる出撃で、髪の色は真っ白になり、目も見えなくなっていく

2.戦争という『非日常』が日常の隣で描かれる

物語の多くは学園が舞台となっている。
普段の授業に部活動、文化祭など、まさに『日常学園モノ』です。

しかし、主人公の浅羽に見えていないだけで、浅羽の日常の裏では、伊里谷が命をかけて戦っているのです。
授業を早退した時も、浅羽とのデートの待ち合わせ前にも、文化祭の間も、伊里谷はずっとブラックマンタに乗って出撃している。

本作では、こういった『非日常』を直接描くことはありませんが、浅羽視点の日常から、こういった非日常が垣間見える点が特に素晴らしいです。

浅羽と伊里谷の裏ではプロの工作員も動いている

部活動の部長がとんでもなく優秀
プロの工作員を追い詰める場面も

3.これしかない結末

本作は4巻完結というキリの良さに加えて、結末が完璧すぎます。
余計なものを全て省いた純粋な物語。
読み終わった後の気持ちよさは、他の作品では味わったことがありません。

未読の方こそ、ぜひ読んでいただきたい作品です。

伊里谷の空と浅羽の夏は、どこへ向かうのか―――。

まとめ

イリヤの空、ufoの夏は2001年に初版が出版された、20年以上も前のライトノベルです。涼宮ハルヒが2003年出版の、アニメ化が2006年。まさにライトノベルの黎明期を支えた作品です。

ハルヒが20年前といわれるが、
イリヤの空、ufoの夏はさらに前の作品

作中には2000年初頭のオタク文化を感じられるような表現が多々あり、令和の若い人には目新しい価値観かもしれません。
ポリコレやジェンダーが騒がれる現代には、似つかわしくない表現もたくさん出てきます。

それでも、一人のメインヒロインを徹底的に立てて、その背景がセカイレベルで描かれる『セカイ系』の金字塔であることは疑いようがなく、最初から最後までワクワクしながら読み切れることは間違いありません。

読み終わった後も、ずっと気持ちの良い余韻を残してくれるでしょう。

まだまだ暑いですが、読書の秋。
この機会に、イリヤの空、ufoの夏を読んでみるのは、いかがですか?

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